欧州のクレジット:インカム投資家の秘策

マニュライフ|CQSインベストメント・マネジメント
クレイグ・スコーデリス
共同チーフ・インベストメント・オフィサー

グローバル投資家のクレジットに対する需要は、欧州よりも米国を優先する傾向がありました。しかし、欧州のクレジット資産の多くは、ボラティリティが相対的に低いにもかかわらず、リターンは一貫して米国のクレジットを上回っています。地域を問わず両地域に柔軟に配分できるマルチ・アセットのクレジット戦略に、相対的に魅力的な投資機会があると考えています。

主なポイント

・欧州のクレジットは、同資産クラスの複数のサブ・セクターで過去1年、3年、5年、10年の期間のパフォーマンスが一貫して米国クレジットを上回っています1

・ボトムアップによるファンダメンタルズ・リサーチ・アプローチを使用して、複数の資産で構成する分散型グローバル・クレジット・ポートフォリオで欧州のクレジット・インカムを得ることがリスク調整後リターンの向上につながると考えます。

・欧州は保護的な法的環境、取締役の厳格な責任、関係が重視されるダイナミクスを背景に、世界の債権者とインカム追求型投資家にとって最も有利な地域の1つとなっています。

欧州のクレジット・ユニバースと米国との比較

米国のクレジット市場の規模は今なお欧州を大幅に上回るものの、欧州市場はこの10年間に著しい成長を遂げました。欧州の一般的なマルチ・アセット・クレジット投資の対象となる債券の発行残高は、2025年第1四半期末現在で総額7.5兆米ドルに達しています。こうした全体的な市場規模の大きさが流動性を支えており、それは多くの利回りの高い資産でも同様です。

米国と欧州のマルチ・アセット・クレジット投資のユニバース(兆米ドル)

出所:ICE、モルガン・スタンレー、MCQS、2025年3月31日現在

米国株式は10年以上にわたって欧州株式市場をアウトパフォームしていますが、クレジット市場ではホーム・バイアス(国内投資の重視)が利益をもたらす傾向はありませんでした。実際に欧州のほとんどの種類のクレジットは1年、3年、5年、10年の期間のリターンが米国のクレジットを上回っています1

市場データによると、欧州のローンは米ドル・ヘッジ後でこの10年間に米国ローンを年間1.2%、累積で19.5%アウトパフォームしています。同期間中のボラティリティは1.0%高くなっていますが、投資家はそれを補う利益を獲得しています。一方、欧州のハイイールド社債は、同期間中の年間ボラティリティが0.5%低いにもかかわらず、リターンは年間で0.6%(累積で8.8%)上回っています。

欧州の投資適格社債でも同様の傾向が弱いながらも見られ、年間ボラティリティが1.9%低い一方で、リターンは年間で0.2%(累積で2.9%)上回っています1

米国株式は10年以上にわたって欧州株式市場をアウトパフォームしていますが、クレジット市場ではホーム・バイアスが米国の投資家に利益をもたらす傾向はありませんでした。

10年前に10,000米ドルを投資した人は、欧州のローンに投資した場合は米国の同様の銘柄への投資と比較して約1,950米ドル、欧州ハイイールド社債の場合は約880米ドル多くの利益を実現したことになります2。ただし、これは仮定上の状況であり、実際の取引を表しているわけではなく、過去の運用実績は将来の結果を保証するものではないことに注意する必要があります。

このような優れたリスク調整後リターンは、オルタナティブ・クレジットの資産クラスのスプレッドが相対的に高いこと、優れた債権者保護の構造があること、投資期間が比較的長期の機関投資家が買い手の中心となっていることから目先の市場動向の影響を受けにくい傾向があることの複合的な要因によって説明できます。

欧州のアウトパフォーマンス
年間の相対リターン:欧州と米国(%)

出所:MCQS、ICE、LCD、ブルームバーグ、2025年3月31日現在。各資産クラスの年率換算リターンを得るために参照した指数は、ICE BofA U.S. Corporate Index(米国投資適格債)、ICE BofA Euro Corporate Index(欧州投資適格債)、ICE BofA European Currency Fixed & Floating Rate Non-Financial High Yield Constrained Index(欧州ハイイールド債)、ICE BofA U.S. High Yield Index(米国ハイイールド債)、ICE BofA Contingent Capital Index(金融債)、Morningstar LSTA U.S. Leveraged Loan Index(米国ローン)、Morningstar European Leveraged Loan Index(欧州ローン)です。指数に直接投資することはできません。相対パフォーマンスは、ICE BofA Euro Corporate IndexとICE BofA U.S. Corporate Index(投資適格債)、ICE BofA European Currency Fixed & Floating Rate Non-Financial High Yield Constrained IndexとICE BofA U.S. High Yield Index(ハイイールド債)、ICE BofA Contingent Capital Index(欧州金融債)、Morningstar LSTA U.S. Leveraged Loan IndexとMorningstar European Leveraged Loan Index(ローン)の2025年3月31日現在のトータル・リターンを比較することによって算出。過去の運用実績は将来の結果を保証するものではありません。

欧州の構造上・法律上の有利な特徴

欧州が魅力的なリスク調整後リターンを実現している根本的な理由の1つは、欧州地域が世界で最も債権者に優しい地域の1つで、法的枠組みや文化的規範が一貫して貸し手を支える環境を提供していることです。

強気の債務再編戦術の回避

欧州以外では、投資適格未満の借り手の間でライアビリティ・マネジメント・エクササイズ(LME)を実施することが増えています。この手法では、実質的に借り手が非公式に債務の再編をすることが可能であり、通常は既存の貸し手が不利な立場に置かれます。LMEは欧州市場で一般的に見られる特徴ではありません。欧州ではLMEの試みにおいて、当初の債権者に有利な裁判所判決が下された注目すべき事案があり、関係が重視される欧州市場のダイナミクスにおいて借り手、貸し手、コンサルタントは既存の契約で強気のLME戦術を使うことによって将来の取引機会が危うくなることを恐れ、使用に乗り気ではありません。

債務超過を避けるインセンティブ

一方、欧州では取締役にとりわけ厳格な責任が課されている場合があります。これは取締役が債務超過や債権者にとって不利な強気の戦術を避ける動機となり、結果的に低い債務不履行率と高い回収率につながっています。

欧州へのバイアスは常に有効か

欧州のクレジット資産は一貫して米国のクレジットをアウトパフォームしていますが、特に過去の運用実績は信頼できる将来の予測とはならないという理由から、自動的に欧州に偏ることは推奨しません。むしろ、柔軟性のあるマルチ・アセットのクレジット投資では、市場サイクルの過程で潜在的な投資機会が生じたときに地域間のレラティブバリュー取引で利益を得ることを目指すことが考えられます。

欧州のクレジット市場は成長し、適応し続けています。すなわち潜在的な投資機会は常に進化しつつあるということです。

その良い例として、米国と欧州の間の相対的価値が時の経過とともに変化してきたローン市場があります。2013年から2015年まで欧州のローンはリターンの上昇が見込まれ、実際にその通りになってきました。しかし2015年後半にかけて徐々に状況が変化し、相対的価値において米国の方が有利な時期が訪れましたが、2018年以降は再度逆転して欧州市場の方が高いリターンをもたらしています。

地域間レラティブバリューの変化
ローンのリターン:欧州と米国の比較(2013年5月~2025年3月)

出所:MCQS、LCD、ブルームバーグの推定、2025年3月31日現在。グレーの部分は欧州のローンが米国のローンをアンダーパフォームした時期を表します。リターンは米ドル・ベースで表記しています。米国の担保付ローンのリターンはMorningstar LSTA US Leveraged Loan Indexで表しています。欧州の担保付ローンのリターンはMorningstar European Leveraged Loan Indexで表しています。指数に直接投資することはできません。過去の運用実績は将来の結果を保証するものではありません。

信用リスクの管理

各市場の一般的な特徴も投資の意思決定の参考になりますが、世界のクレジット・ユニバースで魅力的なリスク調整後リターンを得る機会を見つけるためには、結局のところボトムアップのファンダメンタルズ・リサーチによる信用調査が重要です。社債からローン、転換社債、資産担保証券、金融債に至るまで、マルチ・アセットのクレジット投資の対象は幅広いため、資産クラスについての深い専門性と再現可能な投資プロセスが必要であり、また、欧州と米国の両市場の信用リスクや個別の借り手の信用リスクを抑制するために必要となる知識を得るために、各市場に現地チームを確立しておく必要もあります。

欧州のクレジットの見通しについて

欧州のクレジット市場は成長し、適応し続けています。すなわち潜在的な投資機会は常に進化しつつあるということです。投資家は依然として欧州の経済成長について悲観的な見通しを持っていますが、前述したように、欧州はレラティブバリューの点で一貫して有利な状況が続いており、金融面で一般的に他地域より強固な保護が得られる構造が存在しています。

欧州市場はすでに高水準の流動性を支えるのに十分な規模を有しているものの、米国と比較すると小規模であることから、センチメントの改善か、資産配分の長期的な変化のいずれかによって欧州へ流入する投資資金がたとえわずかでも持続的に増加すれば、欧州クレジットにとって好材料が続くことになります。

  1. ブルームバーグ、2025年3月31日現在。
  2. ICE、モルガン・スタンレー、MCQS、2025年3月31日現在

リスクと手数料については、以下をご覧ください。
https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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