キャピタル・リリーフ(規制資本対応)取引とは何か、なぜ重要なのか

マニュライフ|CQSインベストメント・マネジメント
ジェイソン・ウォーカー
共同チーフ・インベストメント・オフィサー

大規模リスク移転(SRT)とも呼ばれるキャピタル・リリーフ(規制資本対応、RCR)取引はオルタナティブ・クレジットの1分野であり、ここ数年、投資家の関心を集めています。本稿では、キャピタル・リリーフ取引に投資家が目を向けるべき理由を取り上げます。

キャピタル・リリーフ取引:目立たなかった市場が一気に活発化

事実が多くを物語っています。キャピタル・リリーフ取引のグローバル市場は近年、大きな成長を遂げました。欧州の大手銀行やキャピタル・リリーフに前向きな銀行がニッチ戦略として始めたものが、世界に広がっています。マニュライフ・インベストメント・マネジメントの分析によれば、キャピタル・リリーフ市場は昨年1年間だけで約25%拡大しました¹。この数字は保守的であり、他社の分析では30%に近い水準になっています²。しかしキャピタル・リリーフ取引とは何であり、なぜ投資家の関心を集めているのでしょうか。

キャピタル・リリーフ取引とは

キャピタル・リリーフ取引の始まりは、2007年~2008年の世界金融危機まで遡ることができます。この危機を受けて、世界の金融規制当局は銀行の自己資本に目を光らせ、歴史が繰り返されないように自己資本規制が厳格化されました。

実務的には、銀行が予期せぬ損失をカバーするために留保しなければならない自己資本の額が引き上げられました。しかしその反面、銀行が利益を生み出すための活動(ビジネス・ローンの実行など、経済成長を支える重要な役割も果たしている活動)に割り当てることのできる資金は減少しました。

この状況がキャピタル・リリーフ取引の誕生につながりました。キャピタル・リリーフ取引とは基本的に、銀行が規制要件に従って資金をより効率的に管理すると同時に、より多くの融資を実行するために用いるツールです。

以前は欧州の銀行がキャピタル・リリーフ取引市場の中心を占めていましたが²、米連邦準備制度理事会(FRB)がこの種の取引に関する考えを明確にし、取引に参加可能な銀行³を公表したことを受け、米国でも急速に関心が高まりました。

このような取引の重要な特徴は、一般的に担保資産に含まれるローンが多様であることです。

クレジット投資家がキャピタル・リリーフ取引に注目すべき理由

私たちはキャピタル・リリーフ取引を、銀行が保有する安定的に高いインカムをもたらす質の高いローンに投資家がアクセスできる機会だと考えています。データからは、この資産クラスはこれまでデフォルト率が低く¹、クレジット市場全体との相関が一貫して低いことが分かります¹。重要な点として、キャピタル・リリーフ取引はポートフォリオの分散に役立つ要素と捉えることもできます。

このような取引の重要な特徴は、一般的に担保資産に含まれるローンが多様であることです。一般的なキャピタル・リリーフ取引は、さまざまなセクターや地域にわたる多くの借り手へのローンを対象とする傾向にあります。このことは、取引に含まれる個別ローンの損失のリスクを引き下げることに役立ちます。

またキャピタル・リリーフ取引は、非上場企業に対する貸出を含んでいる可能性が高く、実体経済の中で通常はアクセスできない部分に投資するための効率的な手段にもなっています。

キャピタル・リリーフ取引の仕組み

簡単に言えば、銀行はキャピタル・リリーフ取引によって融資ポートフォリオのリスクを投資家に移転し、規制で求められる自己資本の量を減らすことができます。一般的に、キャピタル・リリーフ取引の仕組みは以下のとおりです。

1 投資家グループ(この種の取引を専門とする投資運用会社を含む)は、銀行とキャピタル・リリーフ取引を行う際に、銀行の融資ポートフォリオの一部に対してクレジット・プロテクションを提供することに同意します。

2 銀行は、取引で参照されているローンをバランスシートに残したまま、契約の条件に応じて定期的(一般的には四半期ごと)に投資家に対価を支払います。

3 銀行は規制資本の負担(予期せぬ損失をカバーするために留保しておく必要がある自己資本)が低下するため、新規で実行するローンの金額を増やすことができ、収益性や自己資本利益率(ROE)が上昇する可能性もあります。

キャピタル・リリーフ取引で参照されるローンは大半が投資適格ですが、キャピタル・リリーフ取引の利回りは足元で10%~14%¹と、同格付けの上場資産よりも高い傾向にあります。これは、キャピタル・リリーフ取引で提供される利回りが、ポートフォリオで参照されているローンの金利ではなく、銀行がキャピタル・リリーフ取引の結果として(資本コストという観点から)節減できる金額に基づく傾向にあるためです。

銀行のキャピタル・リリーフ取引は、以下の3つの方法で構成することができます。

1 銀行と単一の投資家との相対取引として

2 少数(通常3~5)の投資家との小規模なクラブディールとして

3 シンジケート取引として

私たちは、キャピタル・リリーフ取引では相対取引やクラブディールの方が投資家にとって有利になり得ると考えています。その方が投資家が取引構造の決定に貢献しやすく、それがリスク特性に影響し、もちろん価格にも影響するからです。

キャピタル・リリーフ取引に伴う課題とリスク

私たちは、銀行のキャピタル・リリーフ取引市場は今後も成長していくと考えています。特に、米国の銀行が幅広いセクターのローンを取引対象に含めていることは興味深い点です。それにより、ポートフォリオの分散に役立つツールとしてのキャピタル・リリーフ取引の評価が高まる可能性があります。

どの取引もそれぞれ個別性があり、細部を非常に細かく吟味する必要があります。

しかしながら、市場の成長は諸刃の剣となる可能性があります。自己資本を改善しようとする銀行や利回りの獲得に関心のある投資家が増加して新たに市場に参加することで、取引の質が一層重要となっていきます。

これは実務的には、デューデリジェンスに費やす時間を増やすこと、取引の構造を吟味すること、参照されているローンのファンダメンタルズを調査すること、物事が期待どおりの展開にならなかった場合にリスクを抑えることができる程度を完全に理解することを意味します。

どの取引もそれぞれ個別性があり、細部を非常に細かく吟味する必要があります。投資家はこの動向を引き続き注視していく必要があるでしょう。市場が拡大することで投資機会が増加する可能性はありますが、そのすべてが適切なものとは限りません。

そのほか、投資家にとっての注意点として、キャピタル・リリーフ取引はクレジット投資の一種と見ることもできます。そのため、キャピタル・リリーフ取引には、金利リスクや信用リスクから時価評価リスクまで、クレジット投資につきもののリスクが付随します。

一般的にクレジット投資に付随するリスク

信用リスク 借り手のローン返済が滞る可能性
インフレ・リスク インフレによってクレジット投資からの期待リターンが目減りする可能性
金利リスク 金利の変動によってクレジット証券の価値に影響が出る可能性
流動性リスク クレジット証券を大幅な割引を行うことなく短期間で売却することは困難な場合があり、そのために損失を被る可能性
時価評価リスク ポートフォリオに含まれる資産(不動産や債務証券など)の簿価が時価を反映していない可能性
出所:MCQS、2025年4月現在。

とは言え、キャピタル・リリーフ取引はストラクチャード・クレジットの一種です。つまり銀行にとっては、緩衝余地を設けて投資家をテール・リスク(投資成績が予想を大きく下回って大きな損失が出る確率)から保護する仕組みを組み込む機会があります。そのため、デューデリジェンスを適切に行う能力が極めて重要となります。

経験豊富な投資家にとっての投資機会

多くの場合、投資という行為は経済裁定とリスク裁定という2つの考え方に基づいて行われます。経済裁定とは、市場による価格の違いから利益を得ることであり、リスク裁定とは、資産の投資実行時の市場価値と予想される将来価値との差から利益を得ることです。キャピタル・リリーフ取引はそのどちらにも該当しません。

キャピタル・リリーフ取引はむしろ、自己資本比率の向上と株主価値の創出に役立つ手段を銀行に提供することで投資機会を作り出しています。そうすることで、ポートフォリオにインカム獲得手段(魅力的な手段であると私たちは考えています)を組み込む機会が経験豊富な投資家に提供されます。また、ほとんどが投資適格のローンから成る分散されたローン・プールへのアクセスも提供され、これは投資家によっては通常アクセスできないタイプの投資対象です。

キャピタル・リリーフ取引市場は誕生以来目立たない存在でしたが、現在勢いが出始めていることには十分な理由があります。私たちは、これが経験豊富なクレジット投資家が注視していくべき市場であることは間違いないと見ています。

  1. ストラクチャード・クレジット投資家(Structured Credit Investor)、Manulife | CQS Investment Management、2025年3月31日現在。キャピタル・リリーフ・セクターの成長は過去3年間にわたって測定
  2. 「ウォール街で最も熱いトレードの1つに関する語源研究(One of the Hottest Trades On Wall Street, an Etymological Study)」、bloomberg.com、2024年6月27日
  3. 「クレジットに関するFAQ:北米の銀行は大規模リスク移転をどう活用しているか(Credit FAQ: How Are North American Banks Using Significant Risk Transfers?)」S&Pグローバル、2024年11月12日

リスクと手数料については、以下をご覧ください。
https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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