緩やかな金融引き締めから金融緩和へ:中国債券市場には引き続き投資機会

ポーラ・チャン
シニア・ポートフォリオ・マネージャー
アジア債券(除く日本)

2022年中国債券市場見通しについて、中国債券担当シニア・ポートフォリオ・マネージャーのポーラ・チャンと同ポートフォリオ・マネージャーのアイザック・メンが、いくつかの重要な要因が引き続き中国債券の追い風となり得る理由を解説します。

2021年は、金利の上昇によって世界の債券市場が軒並み厳しい環境となりましたが、私たちが昨年年初に述べた中国のオンショア債券市場に対する楽観的な見方は正しかったと言えるでしょう。今後は、金融緩和の再開を求める声や、持続可能な通貨高、および世界の投資家にとっての分散効果といったいくつかの重要な要因が、引き続き中国債券の追い風になると見ています。

中国債券(ブルームバーグ・グローバル総合中国TR債券指数)は、他の主要な債券カテゴリーをアウトパフォームし、2021年初めから2021年11月末までの間に米ドル建てで6.99%上昇しています(図1を参照)。

図1:2021年1月~11月の主要債券市場のリターン(米ドルベース)

Chart comparing year-to-date bond market returns of China bonds with U.S. bonds, global bonds, and emerging market bonds, as of November 30, 2021. The chart shows that year-to-date returns China bonds is the only asset class that produced a positive return during the period.

出所:ブルームバーグ、2021年11月30日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

関連する市場の動き:

・ブルームバーグ・グローバル総合中国TR債券指数は、現地通貨建てで4.2%上昇しました(2021年初めから11月末)。

・この間、オンショア人民元は対米ドルで約2.6%上昇し、1ドル = 6.36元となりました。

・中国10年国債利回りは2021年の初めから2021年11月末までの間に28ベーシスポイント(bps)低下し、2.86%となりました。

・米国債利回りの上昇に伴い、中国10年国債の米国債に対する上乗せ金利(スプレッド)も81 bps縮小し、1.42%となりました。

中国債券の上乗せ金利が利回りを追求する投資家を引きつける可能性

中国債券は2021年に絶対的・相対的ベースで堅調なパフォーマンスを上げました。その背景としては、中国政府が金融政策や財政スタンスの引き締めを維持したことで、中国国債が世界の他の国債と比べて魅力的な利回り水準を維持できたことが挙げられます。2020年上期にパンデミックが始まって以来、中国人民銀行が行った7日物リバース・レポ金利の引き下げ幅は30 bpsに留まり、2021年12月時点では2.2%となっています。世界の多くの中央銀行とは異なり、中国人民銀行は量的緩和を行っておらず、そのため今後、金融政策を緩和する余力(政策余地)を残しています。したがって、G7諸国の政策金利がマイナス圏またはゼロ近辺にあり、債券の実質利回りが大幅なマイナスとなっている中で、中国国債の利回りはG7諸国を150~200 bps上回り、他国とは一線を画しています。

図2:中国国債の利回りは米国国債を上回っている

Chart comparing China government bond yields and U.S. 10-year Treasury yields from March 2020 to November 30, 2020. The chart shows that 10-year yields for China government bonds are notably higher than its U.S. equivalent.

出所:ブルームバーグ、2021年11月30日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

金融・財政政策は形を変えつつある

財政政策に関して言えば、中国は2021年に有意味な引き締めを行ったG20で唯一の主要国です1。中国の2021年の財政政策は、GDPを2.5%引き下げる影響があったと見られます。第1四半期から第3四半期までの政府債(中国国債、地方債、政策銀行債)の純発行額は前年同期を2.8兆元下回り、通年では前年を約2.4兆元下回る見込みです2。緩やかな財政引き締めによって内需と物価の上昇が抑制された一方で、起債額の減少は長期金利が低下する要因となりました。

通貨に関しては、オンショア人民元は対米ドルで2.6%、CFETS通貨バスケットに対して8.3%上昇しました(外国通貨の貿易加重バスケットと比較したオンショア人民元の価値を測定)。オンショア人民元の堅調さを支えてきたのは、6,500億米ドル超という中国の記録的な貿易黒字です。産業サプライチェーンの底堅さが中国経済を後押しし、スタグフレーションという逆風を緩和したことが背景にあります。

全体として、中国債券とオンショア人民元はいずれも上記の要因により投資妙味を維持すると思われます。中国の現地通貨建て債券や通貨には十分なリスクプレミアムが付与されています。

2022年のマクロ経済的テーマ:金融緩和、コロナ禍の動向が及ぼす影響、米国金利の正常化

1.      中国の内需の縮小:金融緩和の再開を求める声

中国の政策決定者は、12月10日に開催された年次中央経済工作会議で2022年の経済計画を調整しました。同会議では、GDP成長率目標やインフレ目標、金融政策および年度予算目標が決定されました。2022年下期に第20回共産党党大会の開催を控えていることから、良好なマクロ経済環境と安定的な経済成長、および財政の安定性を維持することは最優先事項であると思われます。党大会は5年ごとに開催され、中国共産党の高位指導者から成る中央委員会のメンバーを正式に承認します。

2021年下期には経済指標が悪化したため、中国の金融・財政スタンスをある程度緩和する理由は十分にあると言えるでしょう。また、更なる信用緩和や規制緩和を行えば、不動産セクターの下落が中国経済全体に及ぼしている影響を和らげることに役立つと思われます。

中国人民銀行は12月6日、大方の予想どおり、預金準備率を0.5ポイント引き下げました。その数日前には李首相が演説を行い、ダウンサイド・リスクの兆候が増える中で実体経済を支えるために預金準備率を引き下げることを示唆していました。中国人民銀行によると、この引き下げによって1.2兆元の長期資金が市場に供給されることになります。私たちはこの動きを、景気の悪化に対処するために金融政策を緩和する明確なサインと見ており、その一方で、2022年初頭には何らかの形の追加的金融緩和が実施されると予想しています。

2.      コロナ禍の動向:変異型「オミクロン株」と、パンデミックが引き起こしたスタグフレーションによる供給ショックの進展

パンデミックの開始から2年近くが経過したものの、明確な終わりはまだ見えてきません。最近では、オミクロン変異型や、世界の経済成長に及ぼす影響が不透明なことを理由に、リスク市場に動揺が走りました。中国の経済指標は冴えないままであり、パンデミックが更に深刻化した場合、スタグフレーションによる供給ショックが悪化して投資家のリスク選好姿勢に重大な影響が及び、短期的には中国債券に対する投資家のエクスポージャーにも影響が出る可能性があります。

3.      金利の正常化:パンデミック下で実施された景気刺激策の終了、FRBによるテーパリング、利上げへの道筋

米連邦準備制度理事会(FRB)は、テーパリング(量的緩和の縮小)を加速し、パンデミック下で実施した景気刺激策を終了する意向を積極的に示唆してきました。市場は現在、2022年下期に25 bpsの利上げが2回行われることを織り込んでいます。これはすべての資産クラスにとって重要なテーマとなり、米国の債券利回りと比較した中国の債券利回りの魅力度に直接影響を与え、米ドルに対するオンショア人民元の相対的な価値を左右することになるでしょう。

2022年の見通し: デュレーション、通貨、社債

要約すると、2022年の中国債券に関する私たちの基本見通しは以下の通りです。

  • 中国のオンショア債券は投資家に1桁台前半~半ばのリターンをもたらし、中国人民銀行はレポ金利の10~20 bpsの引き下げを含め、緩やかな緩和政策を実施すると予想されます。それと同時に、中国政府は財政スタンスをやや拡大的な方向に転換すると思われます。
  • マクロ経済政策サイクルにおける国ごとのばらつきが次第に広がりつつあることから、中国のオンショア債券と他の債券市場との相関は低水準で推移し、引き続きグローバル債券ポートフォリオに分散効果をもたらすと予想しています。
  • 中国は大幅な貿易黒字を維持しているため、オンショア人民元高は2022年初頭にかけて継続する可能性があり、海外からのオンショア債券への資金流入は高水準で推移すると思われます。また、FRBが金利の段階的な正常化に乗り出そうとしている今の局面であっても、中国人民銀行は元高を武器に、金融政策を緩和する機会を見出すことができるでしょう。
  • 不動産セクターは中国の経済成長を牽引する重要な要因であるため、中国政府はマクロ経済のハード・ランディングを慎重に回避しながら、同セクターの改革を継続すると思われます。中国政府は、同セクターをてこ入れし、他のセグメントへの飛び火を防ぐための十分な手段を有していると思われます。中小企業向け減税、中国人民銀行の融資ファシリティ、地方政府による特別債の発行などがこれに含まれます。オンショア社債に関して言えば、不動産セクターが不安定化した後も、他のセクターへの飛び火はほとんど起きていません。一方で、質の高い国有企業銘柄に対する投資家の投資意欲は高いままです。

ポジションという観点からは、投資家は以下によって利益を得られる可能性があります。

  • 中長期債は割安であり、利回りの絶対値でも米国債とのスプレッドで見ても、デュレーションを長期化させることで恩恵を得ることができます。
  • 健全な国際収支が支えとなり、オンショア人民元は当面の間、対米ドルで比較的安定的に推移すると予想しています。投資家がポートフォリオにおけるオンショア人民元へのエクスポージャーを積極的に管理できる場合は、コロナ禍に関連した動向や、中国人民銀行とFRBの金融政策の相違の度合いに基づいてエクスポージャーを調正するとよいでしょう。
  • 社債市場に関しては、2021年9月と10月に不動産セクターのボラティリティが高まって市場が調整したことから、現時点では質の高い銘柄に投資妙味があると考えています。

以上をまとめると、中国債券は、緩やかな金融緩和や、マクロ経済政策サイクルにおける他の主要国との相違、および大幅な貿易黒字や投資資金の一貫した流入に支えられた持続可能な元高を背景に、2022年も投資妙味を維持すると予想しています。

  1. マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2021年12月現在
  2. WIND、マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2021年12月現在

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