世界的に国債利回りが上昇している理由

マニュライフ・ジョン・ハンコック・インベストメンツ
エミリー・ローランド、CIMA
共同チーフ・インベストメント・ストラテジスト

マシュー・ミスキン、CFA
共同チーフ・インベストメント・ストラテジスト

国債の利回りは、4月初めに市場のボラティリティが急速に拡大してから、世界的に上昇しています。本稿では、最近の利回りの急上昇が一時的なものとなる可能性について検討し、リスク調整後ベースで債券資産が他の資産と比べて割安になっている現状について考察します。

世界的に債券利回りが上昇している理由は何か?

2025年の世界の金融市場では高いボラティリティが続いています。年初以降の投資家によるリスク回避姿勢が、株式や暗号通貨といった資産の価格の重石となりました。一方、4月8日以降は米国の関税に関する報道の傾向がポジティブな方向に変わり、投資家の心理は改善し、リスク資産価格も上昇しました。債券市場では、10年物米国債の利回りが年初の4.57%から4月4日には4.01%まで低下しましたが、その後わずか数週間で概ね年初の水準まで再び上昇し、5月21日には4.58%となりました1

何が債券市場を動かしているのか、その背景について多くの説明が試みられていますが、その根拠を示すデータはほとんどありません。私たちが最も妥当であると考える説明は、市場は景気やファンダメンタルズのリスクを懸念する局面を脱し、ビットコインや欧州株式など、モメンタム性の強い市場でリターンを追求する局面に移行したというものです。そうした環境下、今年の債券市場は不安心理に支配されながらも、全体としては比較的安定して推移してきたと言えます。

債券利回りの上昇に対する分析を評価  

今回の債券利回りの上昇についてのその他の要因は以下の通りですが、指摘されている要因が多くの投資家が考えているほど重要なものではないと私たちは考えています。

·        米国債利回りの上昇は中国などの海外投資家による売却が原因:利回りが足元で上昇しているのは米国債だけではありません。英国債や日本国債など、米国以外の主要国でも国債利回りが上昇しています。中国は直近の数字で約7,600億米ドルの米国債を保有していますが2、これは36兆米ドルという米国債の発行残高の2%未満に過ぎません。現に、米国財務省のデータを見ても、今のところ海外投資家の米国債保有量が最近減少した様子はありません3。どちらかと言えば、最近の利回り上昇によって米国債の投資魅力は高まっているのではないかと私たちは見ています。

·        米国債利回りの上昇は米国政府の財政赤字が原因:5月21日の20年物米国債入札への投資家需要は低調な結果となり、米国債の利回りはその後上昇しました。しかし、実際のところ2000年以降は米国債利回りと政府支出(GDP比)の相関は低く、政府支出が過去25年にわたって拡大してきた一方で、利回りは上昇するどころか、総じて低下しています。2025年はそうした低相関が変化する年になるという解釈もあります。つまり、米国債の利回りが上昇しているのは減税の可能性があるためであり、財政刺激策(減税)の規模が大きいほど、金融刺激策(米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ)の規模は小さくてすむため、金利低下圧力はより小さいものとなります。5月21日現在、債券市場が織り込む年内の利下げ回数は2回のみとなっており4、わずか1ヶ月余り前の4回から減少しています。政府の政策はもともと予測が難しいものあり、トランプ政権が提案している景気刺激策としての減税については議会による承認も必要です。最終的に実施される可能性はあるものの、私たちの現時点での評価としては、経済成長への効果はおそらく小さいだろうと考えています。

·        「米国売り」という環境下での欧州債の選好:英国債の利回りも最近米国債と同じように再び上昇しており、売り圧力は米国債だけに見られるわけではありません。一方で、今年の欧州債のパフォーマンスは、総じて米国債のリターンを上回っていますが5、それは英国のインフレ率の低下と欧州中央銀行(ECB)による利下げの結果であると考えられます。そのため、現在欧州債の利回りは同年限の米国債利回りの半分未満の水準となっており、これはインカム面での魅力の低下を意味しています。米ドルと金利差との連動はなくなってきており(デカップリング)、米国金利の上昇にもかかわらず、米ドルは他の通貨に対して下落しています。この通常とは異なる動きは、「米国売り」という最近の投資家心理を表していると考えられます。しかし、投資家心理は時に急速に反転することがあり、米国資産がいずれ見直されて投資家に利益がもたらされる可能性はあると思われます。

以上のような世界の債券利回りの上昇に対する説明とは異なり、私たちは、足元の動きはモメンタムとセンチメントが世界の債券市場の動きを牽引しており、マクロ経済の動向やファンダメンタルズはそれほど重視されていないと見ています。債券投資家にとって利回りの上昇は心地良いものではないかもしれませんが、利回りの上昇はいずれピークに達し(10年物米国債の場合は4.60%~4.80%が上限と想定)、その後低下に転じると考えられます。このシナリオは、新たに魅力的な投資機会をもたらす可能性があります。

債券市場に対する現在の見通しを左右するファクター

今回の債券利回りの再上昇は自然に限界に達する可能性があると考えられますが、その理由は以下の通りです。

·        住宅市場は既に厳しい状況にある一方、住宅ローン金利には一段の上昇余地の可能性:米国の住宅市場は多くの逆風に直面しています。5月の全米住宅建設業者協会・ウェルズファーゴ住宅市場指数は、2023年11月以来の低水準に落ち込み、住宅建設会社の景況感の悪化を示しています6。販売用の住宅在庫は先頃2020年以来の高水準に達し、フロリダ州などでは在庫水準が極めて大きく上昇しています。30年住宅ローンの金利は近の全国平均で7%を再び上回っており7、このような住宅ローン金利の上昇の影響は一般的に、時間をかけて経済全体に広がります。金利が6%を上回る住宅ローンの割合は、2022年は全体の4%に過ぎませんでしたが、その後20%まで増加し、足元でも上昇しています。住宅市場は米国経済の重要な先行指標であり、歴史的にはインフレ率にも大きな影響を与えてきました。持ち家の帰属家賃は米国の消費者物価指数(CPI)の最大の構成要素であり、約25%を占めています8。米国債利回りの上昇は、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードの金利上昇を通じて、消費者の借り入れコストを押し上げることにつながります。また、企業や政府の借り入れコストも押し上げられます。その結果、経済全体に引き締め効果が生じ、経済成長とインフレが鈍化する結果、それに連れて次第に金利も低下に向かうと見られます。そして、CPIの重要な構成要素である住居費の伸びが縮小する形でインフレ率は今後も低下を続けるだろうと、私たちは考えています。

住宅建設会社の景況感は2023年後半以来の低水準に悪化
全米住宅建設業者協会・ウェルズファーゴ住宅市場指数の水準
(2023年1月~2025年5月)

出所:全米住宅建設業者協会、2025年4月30日現在。2025年5月の数字は、2025年5月21日現在の速報値です。指数が50を上回ると建設会社の多くが住宅市場の現状と短期見通しに楽観的であること、下回ると悲観的であることを示します。指数に直接投資することはできません。過去のパフォーマンスは、将来の成果を保証するものではありません。

·        金利の上昇は株式市場にも悪影響:金利の上昇は資本コストの上昇を通じて株価にマイナスに働くことが通常であり、最近4.50%を超えた10年物米国債の利回りは、株式市場に影響を及ぼし始めています9。中でも、金利感応度の高い金融セクターや地方銀行が株価の下落圧力にさらされており、地方銀行との関係が比較的深い小型株などのセクターにも悪影響が及ぶ可能性があります。米国債利回りの上昇が地方銀行へのストレスとなるのは初めてではなく、2023年にも同じ事象が起こりました10。こうしたストレスは通常、よりリスク回避的なポジションを取ることを投資家に促し、比較的リスクの低い米国債への需要を高めます。

債券投資家にとっての足元の魅力度の評価

金利の上昇にはいずれ自然に抑制がかかると考えられる一方、現時点ではモメンタムとセンチメントが強い影響力を持っているように見えます。モメンタムやセンチメントといったファクターを排除して足元の債券市場のファンダメンタルズに目を向けると、5月21日現在のブルームバーグ米国総合債券インデックスの利回りは約4.87%であり、デュレーションはやや低下して5.97年となっています11。以下に示すデータは、10年物米国債に関するさまざまな仮想的シナリオについて、インデックスの今後12ヶ月間のトータルリターンの可能性を示したものであり、5月21日以降の利回りとデュレーションの数字をベースとしています。

起点となる利回りとデュレーションの数字をもとに推計すると、今後12ヶ月では、10年物米国債の利回りが5.25%を超えない限り、インデックスのトータルリターンがマイナスになることはないと考えられます。反対に、10年物米国債の利回りが4.00%に低下すれば、インデックスの今後12ヶ月のトータルリターン(%)は1桁台の後半に達すると考えられます。10年物米国債の利回りは引き続きレンジ内で推移する可能性が高いと見ていますが、レンジの上限に再び上昇する時には、魅力的なトータルリターンと好ましいリスク・リターン特性がもたらされる可能性があると、私たちは考えています。資産配分を歴年単位で行う投資家にとっては、年初の10年物米国債の利回りが現在と同水準の4.57%であったため、同じような計算が2025年全体の状況について成り立つ可能性があります。

現在の状況が高クオリティ債券に有利と考えられる理由

出所:ファクトセット、2025年5月21日現在。上記は例示のみを目的としています。上記は仮説に基づくパフォーマンスであり、米国債の長短金利差に変化がなく、イールドカーブの形状が一定であることを前提としています。網掛けの色は赤がマイナス、緑がプラスを表し、それぞれリターンの大きさを示しています。いかなる予測もその実現を保証するものではありません。ブルームバーグ米国総合債券インデックスは、米国の投資適格債のパフォーマンスを表し、国債、資産担保証券、社債を含みます。指数に直接投資することはできません。

2025年の始まりには市場のボラティリティが総じて大きく高まりましたが、そのような環境は投資機会をもたらすこともあります。株式からビットコインまで、リスク資産の価格は足元で反発しており、現在の価格水準に割安感は見出しがたいと私たちは考えています。そして、それは市場が足元ではバリュエーションをさほど重視していないことを示しています。米国の株式市場ではモメンタム銘柄のパフォーマンスが最も高くなっていますが、モメンタムはファンダメンタルズ要因ではなく、リスクオンのセンチメントに絡むものと考えることが一般的です。こうした中、S&P 500株価指数の予想PER(株価収益率)は再び21倍を超え11、低調な企業収益が続く欧州株式も足元のバリュエーションが急上昇しています。資産クラス間で比較すると、高リスク資産が最近再び割高になり始めた一方で、債券は特にリスク調整後ベースで割安感が高まっています。

  1. https://home.treasury.gov/resource-center/data-chart-center/interest-rates/TextView?type=daily_treasury_yield_curve&field_tdr_date_value=2025
  2. https://www.statista.com/statistics/246420/major-foreign-holders-of-us-treasury-debt/
  3. https://home.treasury.gov/news/press-releases/sb0124
  4. https://www.cmegroup.com/markets/interest-rates/cme-fedwatch-tool.html?redirect=/trading/interest-rates/countdown-to-fomc.html
  5. https://www.bloomberg.com/markets/rates-bonds/government-bonds/us
  6. https://www.nahb.org/News-and-Economics/Housing-Economics/Indices/Housing-Market-Index
  7. https://www.cbsnews.com/news/mortgage-interest-rate-7-percent-moodys-downgrade-economy/
  8. https://www.bls.gov/cpi/factsheets/owners-equivalent-rent-and-rent.htm
  9. https://www.reuters.com/business/finance/moodys-downgrade-ripples-through-bond-market-causes-worries-stocks-2025-05-20/
  10. https://www.richmondfed.org/publications/research/econ_focus/2024/q3_federal_reserve
  11. ファクトセット、2025年5月21日現在

    ※ブルームバーグ米国総合債券インデックスは、米国の投資適格債のパフォーマンスを表し、国債、資産担保証券、社債を含みます。S&P 500株価指数は、米国の大手企業500社のパフォーマンスを表しています。指数に直接投資することはできません。

リスクと手数料については、以下をご覧ください。
https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

  • 本資料は、海外グループ会社の情報を基にマニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社(以下「当社」といいます。)が作成した情報提供資料です。
  • 参考として掲載している個別銘柄を含め、当社が特定の有価証券等の取得勧誘または売買推奨を行うものではありません。
  • 本資料は、信頼できると判断した情報に基づいておりますが、当社がその正確性、完全性を保証するものではありません。
  • 本資料の記載内容は作成時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。
  • 本資料のいかなる内容も将来の運用成果等を示唆または保証するものではありません。
  • 本資料に記載された見解・見通し・運用方針は作成時点における当社の見解等であり、将来の経済・市場環境の変動等を示唆・保証するものではありません。
  • 本資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、その開発元または公表元に帰属します。
  • 本資料の一部または全部について当社の事前許可なく転用・複製その他一切の行為を行うことを禁止させていただきます。

マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第433 号
加入協会: 一般社団法人 投資信託協会/一般社団法人 日本投資顧問業協会/一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
 

投資には、元本割れなどのリスクが伴います。金融市場は変動しやすく、企業、産業、政治、規制、市場又は経済の変化に応じて乱高下することがあります。掲載されている情報は、特定の人に係る適合性、投資目的、経済状態又は特定のニーズを考慮したものではありません。

全ての見解及び解説は、一般的な性質を有するように意図されており、現時点の関心事に資するためのものです。これらの見解は有用であると考えていますが、税務、投資又は法務に関する専門的アドバイスに代わるものではありません。お客様固有の事情につきましては、お客様自身が適切な専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。マニュライフ・ウェルス・アンド・アセット・マネジメント又はその関連会社若しくは代表者(以下「マニュライフWAM」と総称します。)のいずれも、税務、投資又は法務に関するアドバイスを提供するものではありません。

本資料は、関係する法域において適用される法令等に基づきその受領を許可された者のみを対象としています。本資料に掲載された意見は、執筆者の見解であり、予告なく変更される場合があります。投資チーム間で、異なる見解を有することがあり、異なる投資判断を行うこともあります。これらの意見は、必ずしもマニュライフWAMの見解を反映しているとは限りません。本資料に掲載されている情報及び/又は分析は、信頼性があると思われる情報源から入手したものですが、マニュライフWAMは、当該情報及び/又は分析の精度、正確性、実用性又は完全性について何らの表明も行わず、当該情報及び/又は分析を使用したことによる損害について一切責任を負いません。本資料の情報には、将来の事象、目標、運用哲学その他の予想に関する予測や見通しについての記述が含まれていることがありますが、いずれの情報も表示されている日付時点での最新の内容です。本資料における情報(金融市場の動向に関する説明など)は現在の市況に基づいていますが、現在の市況は今後の市場での出来事その他の理由によって変動し、置き換えられる可能性があります。マニュライフWAMは、かかる情報を更新するいかなる責任も負いません。

マニュライフWAMは、本資料の情報を信頼して行動し又は行動しなかった人が直接又は間接的に被った損失、損害その他の結果に関する責任を負うものではありません。本資料は、もっぱら情報提供を目的として作成されており、有価証券の売買又は投資戦略の採用につき、マニュライフWAM又はその代理人が推奨したり、専門的アドバイスを提供したり、申込み又は勧誘したりするものではありません。また、マニュライフWAMが管理するファンド又は口座における取引の意図を示すものでもありません。いかなる市場環境においてもリターンを保証し又はリスクを排除する投資戦略又はリスク管理手法はありません。分散投資又はアセット・アロケーションによって、いかなる市場においても、利益が保証されることはなく、損失から保護されることもありません。別途示している場合を除き、全てのデータの出所はマニュライフWAMです。過去のパフォーマンスは、将来の成果を保証するものではありません。

本資料は、証券当局その他規制当局に審査及び登録されていませんが、マニュライフWAM並びにその子会社及び関連会社(マニュライフ・ジョン・ハンコック・インベストメントのブランドを含みます。)が適宜配布することもあります。

©2025 by Manulife Wealth and Asset Management. All rights reserved. マニュライフ・ウェルス及び/又はマニュライフ・プライベート・ウェルスは、許可を得て使用しています。本資料に掲載されている意見は、執筆者の見解です。マニュライフ・ウェルス及び/又はマニュライフ・プライベート・ウェルスは、記述やデータの正確性、完全性を保証するものではありません。

Manulife、Manulife Investments及びMのデザイン、並びにManulife Investments及びMのデザインの組み合わせは、The Manufacturers Life Insurance Companyの商標であり、John Hancock及びJohn Hancockのデザインは、John Hancock Life Insurance Company(米国)の商標です。それぞれ、同社のみならず、ライセンスに基づき同社の関連会社にも使用されています。