中国債券:不確実な時代の安全な逃避先?

ポーラ・チャン
アジア債券運用チーム シニア・ポートフォリオ・マネージャー 

 

新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大し、世界経済の成長見通しが不透明となる中、2月後半以降、市場のボラティリティは、ほぼ前例のない水準まで上昇しています。こうした状況を受けて、各国中央銀行は、金融市場の急激な下落に対応し、大規模な景気刺激策を打ち出しました。アジア債券運用チームのシニア・ポートフォリオ・マネージャーのポーラ・チャンは、この危機を完全に脱するまでにはまだしばらく時間がかかるものの、市場の下落局面で中国債券市場がどのように推移してきたかを振り返るには今がちょうど良い機会であると考えています。

中国債券の年初来のパフォーマンスは?

主要債券市場の中で、総合債券指数(年初来リターン)がプラスとなっているのは中国と米国の2市場のみです。米国の総合債券指数は2.23%、中国の総合債券指数は1.14%上昇しています1

この間、中国国債は0.93%、中国社債は0.22%のリターンを示しています2。現地通貨建てベースでは、中国総合債券指数の上昇率は3.02%に達しており、中国国債の上昇率は2.81%、中国社債の上昇率は2.08%となっています。人民元は、この間に米ドルに対して1.24%下落しています。  

ボラティリティと相関は依然として低い

図2が示すように、市場が極端な状況にある時でさえ、中国債券のボラティリティは低水準に留まっています。年初来の日次リターンで見た場合、中国債券の標準偏差(年率換算)は5.3%と、世界の債券市場の中で最も低い水準となっています。この間、他の主要債券市場との相関も低水準で推移しています。ここでも年初来の日次リターンで見た場合、中国債券と米国および欧州債券の相関はそれぞれ0.16と0.26であり、より長期の相関(10年間のリターン)とさほど変わらない水準です。

中国国債の利回りはどうなっているのか?

中国人民銀行(PBoC)は当初、経済的ショックに対して控えめな対応を取っていました。金融政策を小幅に調整するに留め、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする他の中央銀行が行ったような大規模な刺激策は見送りました。FRBは、3月3日に50ベーシスポイント(bps)の利下げを行った後、すぐに3月15日に100bpsの追加利下げを決定し、政策金利目標を0~0.25%まで引き下げました。

3月末にかけて、PBoCは7日物レポ金利を(2.4%から)2.2%に引き下げ、銀行に対する貸出金利を2015年以来最も大幅に引き下げました。このことは、今後より大規模な金融政策が打ち出される可能性があることを示唆しています。

中国は、新型コロナウイルスに対する政策対応の初期段階で、迅速な行動を取り、中小企業を中心とした流動性懸念の軽減に注力しました。また、感染拡大によって最も打撃を受けた地域とセクターを対象に、的を絞った支援策を打ち出しました。PBoCは、2月前半、公開市場操作を通じて約1.3兆元(ネット)の流動性を供給しました。PBoCはその後も2月に共同出資会社の形態をとる銀行の預金準備率を100bps引き下げ、中期貸出ファシリティ(Medium-term Lending Facility、MLF)金利を10bps引き下げるなどの追加措置を実施しました。最優遇貸出金利(Loan Prime Late、LPR)についても2月に10bpsの引き下げが行われましたが、3月は据え置きとなりました4

これまでの中国当局の対応が控えめである理由の一つとして、中国市場がウイルスの感染拡大に対してそれほど急激に反応していなかったことが挙げられます。他国の株式市場は30%を超える下落となっていますが、中国の株式市場の3月の下落は約10%です5。結果として、中国の金融市場では、他の先進国市場が直面したような大規模な流動性の逼迫は生じていません。実際に、オンショア社債ではスプレッドの大幅な拡大は起きておらず、新規発行市場も正常に機能しています。

そのため、10年物中国国債の利回りは年初から約55bpsの低下に留まり、2.59%となっています。この間に、米国債利回りは107bps低下して0.84%となっています。これにより現在、10年物の中国国債と米国債のスプレッドは1.99%に拡大しています。これは2011年後半以降で最大の水準です6。 

今後の追加的金融緩和策の実施可能性について

中国政府による初期の政策対応は、流動性の逼迫を軽減し、産業活動の回復を支援することに重点を置いていました。しかしながら、経済活動が実質的に停止し、世界経済が急激な景気後退に向かいつつあることを考えれば、今後は需要を押し上げ成長を後押しするために景気刺激策を拡大せざるを得ないでしょう。市場では現在、中国経済は2020年第1四半期に大幅なマイナス成長となった後、今年後半にある程度回復すると予想されています。実質GDP成長率は1桁台前半になる可能性が高いと思われます。

今後数カ月間は輸出需要の大幅な縮小が予想されることから、中国経済の成長見通しは特に厳しく、景気を支えるにはさらなる景気刺激策が必要になると思われます。ただし、政策規模は2008年のような過度な水準となる可能性は低いと私たちは考えています。

中国政府は、景気を支えると同時に金融の安定性を確保するバランスの取れたアプローチを維持することに注力しています。また、今後の施策は、金融政策と財政政策を組み合わせたものとなる可能性が高いと思われます。PBoCが必要に応じて追加利下げを行う余地を大きく残している点は重要なポイントですが、利下げを実施する場合でも慎重さと忍耐強さを維持するものと思われます。

中国クレジットの見通し

中国経済に対する新型コロナウイルスの影響は、主として外需に関するものとなります。中国の輸出セクターは、2018年~2019年に米中貿易戦争で経験した状況と似た下押し圧力に晒されるでしょう。また中国は、景気回復を後押しするために、さらなる金融・財政支援策を打ち出すと見られます。原油価格の急落は、全体的に中国にはプラスに作用すると思われます。中国は原油の約70%を輸入しており、原油価格の下落は経常収支と外貨準備高の改善につながるためです。加えて、エネルギー価格の下落はインフレ圧力を和らげ、追加金融緩和の余地を拡大すると思われます。

中国の国有企業(SOE)と地方政府の資金調達事業体である融資平台(LGFV)は、引き続き政府が財政刺激策を実施する上で重要な役割を果たすと見られます。ただし、前回の景気サイクルの2015年当時と比べると、政策の余地は大幅に狭まっています。これは、地方政府の債務が全体的に高水準にあるためです。新たに供給される流動性は、主として比較的質の高いSOEとLGFVに流入すると見られます。比較的格付けの低いSOE、LGFVや民間企業(AA格以下のオンショア企業)は、より深刻な流動性状況に直面する可能性があり、その場合、デフォルト率が高まることが予想されます。

中国の不動産セクターでは、不動産開発企業も新型コロナウイルスの感染拡大に伴う業務の混乱によって悪影響を受けています。不動産販売によるキャッシュフローが減少し、借り換えリスクが高まっているためです。中国政府はこれまで、現地の販売規制を廃止し、オンショア不動産市場に潤沢な流動性を供給することにより、不動産セクターを支援してきました。しかし不動産販売の低迷が続けば、資金調達手段が限られていてかつ多額の債務の返済期限が迫っている小規模な不動産開発企業は、苦しい状況に置かれます。感染拡大以降、民間不動産開発企業のデフォルト件数は増加傾向にあります。その一方で、オフショア債券市場で活発に起債を行っている大手不動産開発企業のほとんどは、今後12カ月以内の債務返済に十分な流動性を有しており、足元の低迷を乗りきるのに有利な立場にあると考えます。私たちが注目している不動産開発企業の販売および建設活動は復調しつつあるものの、不動産需要の低迷が続いていることから、V字回復が起きるとは予想していません。また現在の状況では、市場再編が加速すると予想され、大手不動産開発企業とSOEが、流動性がひっ迫するおそれのある小規模な不動産開発企業から市場シェアを奪うと見ています。

中国の銀行セクターは、実体経済の悪化を背景に、資産の質が低下するおそれがあり、一方、保険会社と証券会社は、資本市場の低迷が重石となる可能性があります。とは言え、中国の大手銀行は資産の質の高さを背景に有利な立場にあると考えられ、自己資本比率はここ数年で最も高い水準にあります。また、LGFVや過剰設備に悩む産業へのエクスポージャーが少ないことも特徴です。他の主要国と比べ、中国の金融システムは比較的底堅さを維持すると予想されます。とりわけ、中国の金融システムにおいては2017年~2019年にかけてレバレッジ解消のプロセスが進展したことから、中国株式市場は(これまでのところ)この危機を他国よりもうまく乗りきっています。また、中国政府は金融システムの安定性を確保することに関して優れた実績を持っています。

人民元に関する見通し

人民元は米ドルに対して約1.24%下落したものの6、今後数カ月間はレンジ内の動きに留まると予想しています。FRBが実質的に金利をゼロに引き下げたことから、米ドルが現在の水準から大幅に上昇する可能性は低いでしょう。加えて、中国が比較的抑制されたペースで金融刺激策を実施している点も、金利差という面で他国に対する優位性を維持することに寄与すると見られ、中国経済見通しは悪化しているものの、人民元を支えると予想しています。

まとめ

新型コロナウイルスを巡る危機は、中国債券と他のグローバル債券との相関の低さだけでなく、この前例のない局面における比較的安全な逃避先としての中国国債の価値を浮き彫りにしました。さらに、中国国債市場は絶対利回りの水準から見て最も魅力的な市場の一つであり、他の先進国債券市場に対する利回り面での優位性は続くと思われます。その一方で、中国政府は、金融刺激策についてはバランスの取れたアプローチを維持しています。インデックスへの組入れというテーマによって多額の投資資金の流入が見込まれる一方、外国人投資家による中国債券投資はまだ低水準にあるため、中国債券に対する需要は長期的に拡大し続けると私たちは考えています。

  1. 年初から2020年3月25日までのリターン。ブルームバーグ・バークレイズ米国総合債券インデックス(米ドル建て、ヘッジなし)、 ブルームバーグ・バークレイズ中国総合債券インデックス(米ドル建て、ヘッジなし)
  2. 年初から2020年3月25日までのリターン。ブルームバーグ・バークレイズ中国国債インデックス(米ドル建て、ヘッジなし)、ブルームバーグ・バークレイズ中国社債インデックス(米ドル建て、ヘッジなし)
  3. ブルームバーグ、2020年3月26日時点
  4. サウスチャイナ・モーニング・ポスト“China to inject US$174 billion of liquidity into markets amid new coronavirus outbreak”(2020年2月23日)、ロイター“China cuts medium-term rate to soften coronavirus hit to economy”( 2020年2月17日)、ロイター“China pumps $79 billion into economy with bank cash reserve cut”( 2020年3月13日)、サウスチャイナ・モーニング・ポスト“China keeps benchmark loan rate unchanged despite coronavirus” (2020年3月20日)
  5. 上海総合指数。ブルームバーグ、2020年3月26日時点
  6. ブルームバーグ、2020年3月26日時点
 
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