不確実性が高まる中、国内要因が中国社債市場の見通しを左右

フィオナ・チャン
グローバル・エマージング債券 リサーチ・ヘッド

ジュディ・クオック
中国債券 リサーチ・ヘッド

ロシア軍がウクライナの一部に対する軍事攻撃を開始して以来、多くの西側諸国が対抗措置としてロシアに幅広い制裁を課しています1。本稿では、この紛争が中国社債市場に及ぼす影響について解説します。現時点では投資適格社債への影響は限定的であり、ハイ・イールド債の厳しい見通しは概ね国内要因によって左右されています。

ロシア・ウクライナ間の軍事紛争はグローバル市場全体に衝撃を与えたものの、これまでのところ、中国社債に対する影響は最小限に留まっています。

戦争のような地政学的事象は極めて流動的であり、経済や市場に及ぼす影響は幅広く、かつ急激に変化します。今も続いている戦争と、それに伴うロシアへの制裁による最も直接的な影響は、エネルギー、穀物、および金属の世界的な供給不足が懸念されることです。ロシア製の肥料が供給されない場合、農産物の供給が長期的に減少するか、食糧危機に陥る可能性さえあります。ただでさえ高水準にあるコモディティおよび食品価格が一段と上昇すれば、世界経済はスタグフレーションに陥り、パンデミックからの回復が鈍化するおそれがあります。

中国は、国連安全保障理事会の投票権を持つメンバーとして、またロシアとの相対的に密接な外交関係を理由に、目下の動向から影響を受けざるをえません。ロシアはエネルギーおよびレアアースの主要な生産・輸出国であるため、中国企業はボラティリティとコモディティ価格の上昇によって影響を受ける可能性があります。また地政学的事象によって資本市場が混乱をきたしているため、オフショア市場での資金調達に支障が出る可能性もあります。とは言え、相対的に良好な国際収支と、多額の経常黒字と外貨準備高を有する中国のような国家は、こうした潜在的なショックに対して固有の底堅さを発揮すると見ています。 

投資適格社債の注目セクター

総じて、足元の状況や一連の制裁に基づく中国社債市場の様々なセグメントへの悪影響はまだ生じていないものの、この見方は今後変わる可能性があります。投資家は、投資適格社債の2つの重要なセクター、つまり金融とエネルギーを注視する必要があります。

金融:中国の金融セクターは、ロシア経済に対しても、自己資本比率や流動性状況の悪化に直面しうる欧州金融セクターに対しても、直接的なエクスポージャーは限定的です。国際金融取引に関するメッセージ伝送サービス・ネットワークであるSWIFTからロシアの銀行を排除するという決定は、中国に直接影響を及ぼすものではないものの、中国国内の金融機関は、現在の制裁体制に厳密に従いながら、代替的なシステムを開発しようとする可能性があります。

エネルギー:エネルギー面での中国とロシアの結びつきは金融面よりも多岐にわたり、両国は先日、30年間の天然ガス供給契約を締結しました2。またいくつかの中国国営企業は、ロシアの液化天然ガス・プロジェクトに対する少数持分を保有しています3。とは言え、中国はロシアからのエネルギー輸入に過度に依存しておらず、今でも多様なエネルギー基盤と国内の豊富な石炭鉱床を有しています。

(米国がロシア産原油、液化天然ガスおよび石炭の輸入を禁止した4とは言え)現時点ではエネルギーはより幅広い制裁の対象に含まれていないことから、中国のエネルギー企業のエクスポージャーは限定的と見られます。さらに、一部の著名な国営企業は既に米国の制裁対象となっていることから、資金調達活動に悪影響が生じる可能性は低いと思われます。

中国ハイ・イールド債市場に関する最新の見方

不動産セクターの問題により、ハイ・イールド債市場の見通しは依然として厳しいままです。2021年12月には、大手不動産開発業者数社がデフォルトに陥りました。1月にいくつかの銘柄がディストレスト化したことや、2月の最新の販売成約件数データからは、デフォルトのために財務状況が一段と悪化したことで、投資家心理が後退し、流動性が低下したことがうかがえます。

このことは、これまで投資家が相対的に低リスクと考えていた、業績が比較的好調で、比較的質の高い「BB」格から「B」格の不動産開発業者に悪影響を及ぼしています。また、このディストレスト化は比較的堅調なオンショア社債市場にも広がり始めており、ボラティリティの上昇をもたらしています。著名な不動産開発業者のデフォルト件数は、今後さらに増加すると思われます。

このような展開は、不動産セクターの回復は緩やかに進むという私たちの当初の予想と概ね一致しています。同セクターが債務を削減し、適切な規模の、ただし財務的により安定した、商業的現実性を持つ業界に生まれ変わるには数年を要するでしょう。 

国内要因が中国ハイ・イールド債の見通しを左右

一方、政府の政策にはいくつかの前向きな動きがあったとは言え、より強力な支援策が必要になる可能性が高いと思われます。中国人民銀行(中央銀行)は2021年12月以降、金融政策についてより緩和的なスタンスを取り、1年物ローン・プライムレートを(4.65%から4.60%に)5ベーシスポイント引き下げたほか、住宅ローンの参照金利についても引き下げを行いました。地方レベルでは、市況の悪化に歯止めをかけるために90近い都市が住宅ローン金利を引き下げた5ほか、いくつかの都市では、希望者が住宅を購入しやすくなるよう、頭金に関する規則が緩和されました6

今後に関しては、投資家は短中期的に以下3つの重要な要因に注意を払うべきだと考えています。

  • 販売成約件数と消費者信頼感の動向:販売成約件数は不動産開発業者の住宅販売件数を表し、消費者信頼感と業界の健全性の目安となります。まだ好転してはいないものの、好転すれば、改善を示す先行指標となる可能性があります。
  • 政府による継続的な政策支援:中央政府と地方政府は支援の提供を開始したものの、流動性を改善し、消費者に不動産の購入を促すため、今後数ヶ月間で、対象を絞った更なる支援策を打ち出す可能性があります。 
  • 既存のデフォルト/ディストレスト銘柄の債務再編:いくつかの不動産開発業者が既にテクニカルなデフォルトに陥っているか、その瀬戸際にあるとは言え、債権者が最終的に受け入れるヘアカット(債務減免)は依然として不透明です。債務再編に向けた協議は1年以上かかる可能性があると予想されるものの、ヘアカットの水準が現在の予想よりも小規模になった場合は、投資家心理が改善した印と言えるでしょう。また債務の再編が進み、このような不透明感が薄れれば、より多くの市場参加者が債券を取得するために市場に参入すると思われます。 

不安定な市場環境における堅実な銘柄選択の重要性

足元の地政学的事象の展開が速く、変化が激しいことからも分かるように、銘柄選択ではしっかりとしたリサーチとデュー・デリジェンスが最も重要です。足元の環境におけるリスクの多くは、表面的な分析では見落としかねない経済的なつながりに起因しています。私たちのボトムアップに基づくクレジット・リサーチには、顧客の集中度やキャッシュフローの源泉を含めた企業のファンダメンタルズの慎重な調査や、懲罰措置が取られた場合のストレス・テストも含まれています。私たちは、これらのリサーチ結果に基づいて、慎重に投資判断を行っています。

  1. ロシア中央銀行やロシアのほかの銀行に対する多くの制裁のほか、世界的な決済システムへのアクセスやハイテク機器の輸出に関する制裁が課されています。
  2. www.reuters.com/world/asia-pacific/exclusive-russia-china-agree-30-year-gas-deal-using-new-pipeline-source-2022-02-04/
  3. ブルームバーグ、2022年3月12日
  4. https://home.treasury.gov/system/files/126/eo_prohibitions_imports_investments.pdf
  5. https://www.reuters.com/markets/rates-bonds/banks-nearly-90-chinese-cities-cut-mortgage-rates-report-2022-02-22/
  6. https://www.reuters.com/markets/rates-bonds/chinese-city-cuts-home-down-payment-ratio-bid-boost-demand-2022-02-18/

リスクと手数料については、以下をご覧ください。
https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide

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世界的なパンデミックなどの公衆衛生危機は、市場のボラティリティの大幅な上昇、証券取引の停止等の原因となり、ポートフォリオのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界の経済活動に深刻な打撃を与えています。将来、発生する可能性のある公衆衛生危機、およびその他のエピデミックやパンデミックは、現時点では必ずしも予測可能ではない影響をグローバル経済に与える可能性があります。公衆衛生危機は、既存の政治的、社会的、経済的リスクを悪化させる恐れがあります。こうした事象はポートフォリオのパフォーマンスに悪影響を与え、投資に損失が生じる可能性があります。

投資には、元本割れなどのリスクが伴います。金融市場は変動しやすく、企業、産業、政治、規制、市場又は経済の変化に応じて乱高下することがあります。エマージング市場での投資に関しては、これらのリスクはより大きくなります。為替リスクとは、為替レートの変動がポートフォリオの投資の価値に悪影響を及ぼすことがあるというリスクです。

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