拡大する円建てハイブリッド債への投資

主なポイント

  • ハイブリッド債とは、一般的に普通社債と自己資本・株式との中間的な債券とみなされる証券であり、その満期は中長期に渡り、弁済順位が普通社債より劣後し、利払いに関して発行体に裁量がある場合が多い
  • ハイブリッド債は発行企業にとっては一部が格付け評価上「自己資本」とみなされるが、会計上は一部を除き「負債」であるため自己資本利益率(ROE)向上の一つの手段となりうる
  • 金融機関による円建てハイブリッド債の継続的な発行ニーズ・中長期的なROE の向上に注目するESG 投資の追い風をうけた事業会社のニーズにより市場規模が拡大
  • 円建てハイブリッド債の発行主体は信用力の高い発行体であり、信用リスクは限定的
  • 円建てハイブリッド債特有のリスクを適切に評価することにより、相対的に高いリターンを得ることが可能

昨年末以降、事業会社による円建てハイブリッド債の大型発行が続いています。また、2019年度初めには武田薬品工業による円建てハイブリッド債の発行が予定されています。従来から継続的に発行されている金融機関の円建てハイブリッド債と合わせると13兆円程度の市場規模となる見通しです。金融機関は主として規制対応の必要性から継続的に発行していますが、事業会社は海外におけるM&Aや格付を維持する目的1で円建てハイブリッド債を発行しています。今後は、昨今の中長期的なROEの向上に注目するESG投資拡大の流れを受け、発行額の一部が「負債」ではなく、格付け評価上「自己資本」とみなされることにより資本効率を高める効果2のあるとされる円建てハイブリッド債の発行需要が事業会社の間で高まることが予想されます。本稿では、低金利環境が継続する市場環境下において、相対的に高い利回りの円建てハイブリッド債への投資について考察します。

円建てハイブリッド債とは?

円建てハイブリッド債は「自己資本(株式)」と「負債」の性質を有する債券と説明されることがあります。円建てハイブリッド債の一般的な特徴は大きく3点あります。①満期までの期間が非常に長いかもしくは永久であること、②発行企業が倒産(法的整理)に至った際の弁済順位が負債としては最も低いこと(株式よりは高い)、③発行体の裁量で利払いの繰延や停止が可能であること(一部のハイブリッド債の利払いは、債券の利払いというより株の配当のイメージ)の3点です。発行体にとっては償還する必要があることから、円建てハイブリッド債の本源的な性質は「負債」です。しかし、上述の①~③の性質から、規制当局や格付会社が円建てハイブリッド債の全部または一部を資本とみなすため、「自己資本」の性質を持つと説明されます。発行企業からすると円建てハイブリッド債の発行は、普通社債+αのコストで規制当局や格付会社から一定程度規制上・格付評価上の資本と認定される3ため、特に事業会社にとって円建てハイブリッド債は効率的な資本調達かつROE向上のための一つの手段となります。なお、賃借対照表上では会計基準や債券の満期によって「負債」もしくは「純資産・資本」のどちらかに区分されます。

円建てハイブリッド債のリスク

円建てハイブリッド債は、上述の性質から普通社債が内包するリスク(金利変動リスク、信用リスク)に加えて円建てハイブリッド債固有のリスクを内包することになります。これら固有のリスクには、①弁済順位が低いこと、②繰上償還が発行時に予定された日に行われないリスク(コール・スキップ)、③利息の繰延または停止のリスクがあります。①と③のリスクは、発行体の信用力に係るリスクであり、普通社債の信用力分析の延長でそのリスクを捉えることが可能です。一方、②繰上償還がコール日に行われないリスクは、当初の繰上償還予定日の金利水準・クレジット市場の状況等、発行体の信用力判断だけでは測れないリスクを内包しています。なお、②のリスクは円建てハイブリッド債の次のような構造から生じています。円建てハイブリッド債は満期までの期間が非常に長いことから、投資可能な投資家が普通社債と比べて少なくなる傾向にあります。そのため、円建てハイブリッド債には、例えば発行体が発行から5年後や10年後など期限前に償還(返済)できる権利が付いています(この権利をコールと呼びます)。これは、発行体が普通社債を満期に償還する義務とは異なり、あくまで発行体の権利です。ただし、円建てハイブリッド債は発行時に予定された日に繰上償還を行うことが市場慣行として一般的に定着しています。その最初の権利行使日をコール日と呼んでいます。例えばコール日まで5年のハイブリッド債の場合、多くの投資家は当該ハイブリッド債の値付けが5年債として行われているため、内部評価・管理上5年債とみなしています。コール日に繰上償還が行われない場合でも、それは債務不履行(デフォルト)ではなく、その後満期に額面で償還されることになります。ハイブリッド債は、コール日までの期間をベースに値付けされているため、コール日に繰上償還されないことにより、投資家が当該債券を売却し当該ハイブリッド債の市場価格が大きく下落することが想定されます。発行体は市場慣行を破ることで、投資家の信認を失う可能性が高まります。一方、投資家は円建てハイブリッド債への投資を検討するにあたっては、発行体の信用力分析に加え、繰上償還が発行時の予定通りに行われるかを見極める分析力が必要となります。

円建てハイブリッド債の利回り

図表2は、代表的な事業会社の残存年数5年程度の円建てハイブリッド債と同程度の年限の普通社債のスプレッドを比べたものです。円建てハイブリッド債のスプレッドは図が示す通り、普通社債と比べて高い水準にあります。円建てハイブリッド債のスプレッドが普通社債と比べて高い理由は、上述した円建てハイブリッド債固有のリスクに対するプレミアムですが、これらのリスクを上手く回避することが出来れば、円建てハイブリッド債への投資は同一発行体に対する投資で相対的に高いリターンを得ることが可能と考えています。また、日本企業が発行する円建てハイブリッド債は、為替リスクを負わないこと、過去3年程度は相対的に価格変動性も低く安定したリターンを提供していることや、普通社債はスプレッド水準が低いため海外金利上昇等による日本国債金利上昇の影響を受けやすいのに対して、ハイブリッド債は相対的に高い利回りから海外金利上昇やそれに伴う日本国債金利上昇等の影響も限定的であることなどが魅力として挙げられます。現在の市場環境で普通社債のスプレッドは平均的には30bps程度しかありません。仮にベースとなる日本国債金利が上昇した場合、流通市場での流動性・一定の所有期間の利回り(金利上昇は債券価格下落要因)も考慮して、普通社債より日本国債を購入する投資家が増加すると予想されます。一方、ハイブリッド債のスプレッドは100bpsを超えるものが多く、日本国債金利が多少上昇しても十分に一定の所有期間の利回りを確保できる(金利上昇分の債券価格下落をもともと高い利回りで相殺できる)と考える投資家が多いと予想されます。

円建てハイブリッド債のリスク・リターン評価

マニュライフ・アセット・マネジメントでは、円建てハイブリッド債の相対的な価値を評価する際に、①信用リスク対比の期待リターン、②繰上償還が発行時の予定通りに行われる可能性対比の想定されるリターン、の2つの側面から評価を行っています。①は通常の信用力分析をベースとしていること、また、日本市場における円建てハイブリッド債の発行体は比較的格付の高い企業が多いことから、ここでは②に焦点を当て、ご説明します。

ステップ1の繰上償還が発行時に予定された日に行われる可能性の評価においては、円建てハイブリッド債の「目的」、「形式要件」、「資本性」、「経済性」、「経営陣の投資家保護姿勢」の5カテゴリーで20以上の項目を検証対象としています。この評価手法は、日本の事例、また日本より市場規模が大きくかつ相対的に低い格付の発行体が多い欧州の円建てハイブリッド債市場において、繰上償還がコール日に行われなかった事例の実証分析に基づいています。

ハイブリッド債の商品設計としてはコールの可能性を考慮する必要がありますが、日本は欧州と違い相対的に信用力の高い企業が発行しているため、現在ハイブリッド債を発行している企業がコール日に繰上償還する可能性は概ね高いと考えられます。ただし、一部の企業ではハイブリッド債発行時における繰上償還に対する経営陣の姿勢に関する説明が不透明であることや、今後多様な発行体によるハイブリッド債の発行が増加する場合には状況が変化する可能性が高いと考えられることから、ハイブリッド債毎に慎重な分析を行うことが必要であると考えます。

また、金利水準、クレジット市場の状況、発行体の信用力変化等、ハイブリッド債が発行された時点から時々刻々と変化していく要素も多く含んでいるため、ハイブリッド債発行後も日々状況をモニターし、投資判断を調整していく必要があります。当社では、上述の5カテゴリーに市場環境、経済環境、規制環境、発行体の状況に応じて継続的にモニタリングする項目を設けて、ハイブリッド債の発行後も投資判断のアップデートを随時行っています。

なお、日本において公募の円建てハイブリッド債で、発行時に予定された繰上償還日に発行体が繰上償還を行わなかった事例はこれまでありません。

円建てハイブリッド債の発行体

日本における円建てハイブリッド債の発行体は知名度・信用力(格付)共に高い金融機関・事業会社が中心となっています。

  1. 事業会社が発行するハイブリッド債は、その商品設計に応じて、格付会社が格付け評価上一部・または全部を自己資本と見なします。例えば、ある企業が100 億円のハイブリッド債を発行し、格付会社が格付け評価上50%を「自己資本」とみなした場合、50 億円は「自己資本」として50 億円は「負債」として格付を考える上での財務指標が計算されます。この企業の総資産が200 億円、ハイブリッド債発行前の「自己資本」が50 億円だったとすると、自己資本比率は50 億円/200 億円の25%から100 億円/300 億円の30%へと上昇します。
  2. 例えば、当期利益が10 億円、自己資本が200 億円、総資産が400 億円の企業が、格付会社が格付け評価上50%を自己資本と見なすハイブリッド債を100 億円発行して100 億円の自社株買いを実行した場合、ROE は10 億円/200 億円の5%から10 億円/(200 億円-100 億円)の10%に上昇します。一方、格付上の自己資本比率は200 億/400 億円の50%から150 億円/400 億円の37.5%の低下に留まります。
  3. 銀行が発行するハイブリッド債は、その商品設計に応じて、銀行の自己資本規制比率上のTier2 資本、その他Tier1 資本等の自己資本として金融当局から認定されます。事業会社に関しては脚注1 参照。
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※本稿は、マニュライフ・アセット・マネジメント株式会社債券運用部シニア・クレジット・アナリストの押田俊輔が、チーフ・クレジット・アナリスト芦田光久およびシニア・クレジット・アナリスト鈴木泰之の協力のもと、執筆したものです。

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