米国森林投資の見通しは好転
キース・バルター
シニア・アドバイザー、ストラテジック・イニシアティブ
森林農地部門
メアリー・エレン・アロノー
ディレクター、森林経済担当

米国森林投資におけるキャピタル・リターンの好転は堅調な取引価格に支えられた森林評価額の上昇を反映しています。
米国不動産投資受託者協会(NCREIF)が公表するTimberland Property Indexの2021年第3四半期(7-9月期)時点の過去4四半期キャピタル・リターンはプラスに大きく転換し、1.6%の上昇となりました。NCREIF Timberland Property Indexのキャピタル・リターン(過去4四半期移動平均)はゼロ近辺か、マイナスが続いていましたが、10四半期ぶりにプラスとなりました。米国森林投資におけるキャピタル・リターンの好転は同指数の構成物件の鑑定評価額に基づくバリュエーションの改善を反映しており、その背景には、公表された森林取引において見られた堅調な取引価格があります。
米国森林投資は2021年第3四半期に過去4四半期キャピタル・リターンがプラス転換
米国NCREIF Timberland Property Indexの過去4四半期トータルリターン

出所:NCREIF、2021年9月30日現在
2021年の森林取引は活況を呈し、ベンチマークとして評価額との比較が可能な販売事例が十分にありました。TimberMart-Southの調査によると、米国における2021年第3四半期(7-9月期)までの年初来の大型森林取引面積は130万エーカーに達しました。これは2020年同時期の取引面積65万エーカー、2019年同時期の取引面積89.7万エーカーと比較すると大幅な増加です。
TimberMart-Southの調査は、売却された小売サイズの森林区画と1エーカー当たりの平均取引価格も報告しています。2021年第3四半期(7-9月期)に全米で販売された小売サイズの森林区画は67.2万エーカーで、平均価格は調査を開始した2011年以来最高値でした。
森林という資産クラスへの認知が向上した背景には以下のいくつかの要因があります。
- 米国をはじめとする先進国におけるこの1年間の住宅建設活動の堅調な実績
- 森林の炭素隔離能力に対する市場の認知度の向上
- 森林投資のリターンとインフレとの正の相関
米国の住宅建設の良好な見通しは少なくとも2020年代半ばまで続くと予想されます。
米国の住宅建設の良好な見通しは、在宅勤務への移行や家庭と家族をこれまで以上に重視する傾向など、パンデミックに関連したいくつかのトレンドに牽引されて、少なくとも2020年代半ばまで続くと予想されます。2020年代にはミレニアル世代が住宅を所有する年代に入ることから、人口動態も引き続き住宅建設を下支えする要因になると思われます。住宅市場の活況は、製材、木製パネル、木製家具、フローリング、キャビネット類などの建設用木材の旺盛な需要を創出しています。こうした木材製品の生産拡大に伴い、製材用木材の需要は増大し、2021年の森林投資のインカム向上につながりました。NCREIFの調査によると、EBITDDA(利払い前、税引前、減価償却・減耗償却その他の償却前利益)で評価した2021年第3四半期(7-9月期)の森林のインカムは年率3.3%に増加し、EBITDDAの5年平均の年率2.8%を上回りました。
米国の針葉樹材の生産が拡大
針葉樹材の四半期生産高

出所:Western Wood Products Association、2021年第2四半期
ESG投資への認知の高まり
温室効果ガス(GHG)の削減を目指す投資への関心の高まりが、GHG排出ネットゼロ達成に有効な解決手段として森林に注目する要因となっています。森林が持つ二酸化炭素(CO2)隔離の能力への関心が広がり、森林投資に新たな資金が流入しています。
AlphaSenseとSAPは2021年のESGおよびサステナビリティのトレンドに関するレポートで、文書や四半期業績発表で言及されているサステナビリティ関連用語を測定し、環境・社会・ガバナンス(ESG)が最大のトピックとなっていることを明らかにしました。具体的には、決算報告において関心対象として「炭素」が言及された事例は前年同期比で133%増加しています。Preqinの推定によると、2021年10月現在、ESG投資にコミットする運用会社が運用するプライベート・キャピタルの資産残高は3兆1,000億米ドルで、世界のプライベート・キャピタル運用資産残高総額の推定8兆5,200億米ドルの3分の1超を占めています。
森林プロジェクトは自主的炭素市場の最大カテゴリーに
プロジェクト・タイプ別炭素取引量

森林投資とインフレ率との高い相関性は実証済み
森林投資が過去に中程度のインフレから高インフレの局面で優れた運用実績を達成していることは、森林投資の見通しを決定づける3つのポジティブな要因となっています。この数ヶ月間、米国のインフレ率は数十年来の最高水準に達し、11月の消費者物価指数は年率6.9%、生産者物価指数は年率9.7%上昇しました。先日のミシガン大学の調査によると、消費者が予想する向こう1年間の物価上昇率は4.9%で、2008年以来最も高くなっています。
森林投資が過去に中程度のインフレから高インフレの局面で優れた運用実績を達成していることは、森林投資の見通しを決定づける3つのポジティブな要因となっています。
米国のインフレ率は数十年来の最高水準に到達
米国の消費者物価指数(CPI-U)、米国生産者物価指数の変化率(年率)

出所:米国労働統計局、2021年11月現在
今後の見通し
こうしたポジティブな動向は2022年以降も続くと予想されており、森林投資のリターンはさらに向上することが示唆されています。NCREIFによる、2021年第4四半期(10-12月期)のTimberland Property Index(TPI)のパフォーマンスは、良好な価格での取引事例のデータと将来の森林のファンダメンタルズに対する楽観的見通しの高まりなどから、鑑定評評価額の更なる上昇を反映して良好なキャピタル・リターンになると思われます。第4四半期のNCREIF TPIのインカムの要素についても、ウォール・ストリート・ジャーナル誌1が述べているように、製材価格の上昇が下支え要因になると思われます。同誌の記事の中で、マニュライフ・インベストメント・マネジメントの森林投資グローバル・ヘッドのトーマス・サルノは「製材所への投資が進み、この10年で南部地域の原木の需給は均衡すると思われる」と述べています。原木市場のモメンタムは、2021年の森林投資によるトータルリターンが数年来の最高水準に達することを期待させます。
森林市場の指標
製材価格は正常化、住宅着工件数の勢いは鈍化
米国の四半期住宅着工件数と米国の針葉樹材総合価格

出所:ランダム・レングス、2021年9月30日。米国国勢調査局、2021年9月
第3四半期の製材価格は過去最高となった前期から下落し、四半期の平均が472米ドル/MBF(1,000ボードフィート)と前期比-62%の下落となりました。2021年第3四半期の住宅着工件数は季節調整後の年率で前期の158.8万戸から155.5万戸に減少しました。
オーストラリア:住宅着工件数は直近の過去最高から減少
オーストラリアの針葉樹材価格、針葉樹原木価格(豪ドル建て)、住宅建築許可件数

オーストラリアでは第3四半期(7-9月期)に旺盛な住宅需要が減退し、民間住宅建設は前期比で12%減少したものの、前年同期を22%上回っています。堅調な住宅建設を受けて針葉樹構造用製材の需要と価格は上昇し、オーストラリアのパイン材に対する底堅い需要が生まれました。
米ドルがコモディティ通貨に対して上昇
米ドルとコモディティ通貨の四半期為替レート

出所:Macrobond、2021年9月
米ドルは第3四半期(7-9月期)に、対ニュージーランドドルで1%、対カナダドルで2%、対オーストラリアドルで4%、対ブラジルレアルで8%、対チリペソで10%と、ほとんどの通貨に対して上昇しました。
グローバルの針葉樹材価格は前年水準を上回る
針葉樹材の地域別原木価格(米ドル/立方メートル)

主要製材地域における2021年第3四半期(7-9月期)の針葉樹の原木価格は前年同期を上回っています。米国太平洋岸北西部のダグラスファーの原木価格は前年同期比40%上昇し、5四半期連続の上昇となりました。米国南部のサザンパインの原木価格は前年同期比16%上昇し、10年ぶりの大幅上昇となりました。ニュージーランド産ラジアータパインの原木価格は前年同期比36%上昇したものの、直近の最高値から25%下落しました。2020年末に報告された直近のオーストラリアの原木価格データは、2020年6月の前報告年から10%の上昇となったことを示しています。
2021年第3四半期(7-9月期)の森林投資のキャッシュイールドは過去4年間の平均を上回る
米国森林投資のキャッシュイールド(年率、%)

米国の原木価格が上昇し、地域の製材所からの需要が増加したことを受けて、供給可能な森林マネジャーは旺盛な需要に対応して収穫量を引き上げたため、第3四半期の森林投資のキャッシュイールドは年率4%となりました。
米国南部の上場森林企業の価値は直近の最高値近辺を維持
米国南部の四半期森林評価額

詳細については注記(※)をご覧ください。
上場森林会社の企業価値として算出されている米国南部の2021年第3四半期(7-9月期)の森林評価額は、前年同期比14%上昇しました。上場企業の森林評価額は2021年第1四半期(1-3月期)につけた直近の最高値を100米ドル/エーカー近く下回ったものの、歴史的な高値水準を維持しており、上場と非上場の森林評価額には依然として大きな開きがあります。NCREIF TPIで見た第3四半期の非上場の森林評価額は前年同期比でわずかに上昇しました。TPIの大部分の森林が年末に評価されることから、第4四半期(10-12月期)の森林評価額は2021年の非上場の森林評価額を最も正確に示すものになります。
出所:NCREIF、2021年9月。マニュライフ・インベストメント・マネジメント、2021年9月。上場企業の森林評価額は、森林集約度が高い上場企業5社の南部地域相当エーカー(SEA)当たりの森林企業価値(TEV)を、米国不動産投資受託者協会(NCREIF)のデータベースに基づき算出される1エーカー当たりの南部森林評価額との比較としてマニュライフ・インベストメント・マネジメントが算出。TEVは企業価値(株式時価総額と有利子負債の簿価)から加工施設、非森林資産、事業以外の運転資本の推定価値を控除した金額で四半期ごとに算出。SEAは各地域のNCREIFの1エーカー当たりの森林評価額(米ドル)を用いて、企業が保有する様々な地域の森林評価額と等価になるような南の森林の面積に換算したもの。マニュライフ・インベストメント・マネジメントはNCREIFのTimberland Property Indexの構成メンバー。同指数は、構成マネジャーが保有するすべての適格物件を報告することを義務付けています。当データは資産の売買を勧誘するものではありません。
脚注
- ウォール・ストリート・ジャーナル「Lumber Rebound Awakens Timber Market From Long Slumber」、2022年1月20日
リスクと手数料
リスクと手数料については、以下をご覧ください。
https://www.manulifeim.com/institutional/jp/ja/jp-risks-and-fees-guide
ディスクレーマー
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